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第14話「大地の樹・その五」
子供「おっきな木…」
母親「これはね、大聖樹って云って、この大地を甦らせてくれるのよ」
さて、機械室の手前の部屋に入ったふたりだが、案の定テレポートしてきた王蒼幻(わんそうげん)に呼び止められる。実際蒼幻の云う「この大地が滅びかけているのは大聖樹が延命のためエネルギーを吸い取っているせい」ってのはおそらく事実…なのだが、ウフフ頭では納得できても心では納得できない青春のラプソディー。
蒼幻「…その扉を開けたら、大地は滅びてしまうのですよ」
主人公「そんなんやってみなきゃ判らないだろ!! 俺はどうも、結果を気にして行動をためらうってのは性に合わなくてね!!」
蒼幻「話せば判ってもらえると思ったのですが…貴方、賞味期限切れの食べ物を平気で食べる人通り越して、賞味期限を確認さえしないで食べるタイプの人でしょう?」
さくら&馬明仙「そうです!!」
主人公「いやステレオで断言されると!? しかし蒼幻…お前ボケるときも理屈屋なんだなこの優等生め!!」
まあ蒼幻ってそういう人だし(…そうか…?)。しかし玉手箱やパンドラの箱、ピラミッドの入口やご飯入れたまま半年ほど経過してもはや妖気さえ感じられる個人用炊飯器など、古今東西「開けるな」と云われて開けられぬまま残った物など存在しないのもまた事実。ちなみに最後のは絶対開けない方がいい。
さくら「でも…じゃあなぜ大聖樹さんとはお話ししないの?」
蒼幻「人でない物との話し合いなど時間の無駄です」
さくら「そんな…きっと伊邪那岐さんや明紅(めいほん)さんやゾマホンさんと話し合いしようとする方がよっぽど時間の無駄よ!? 当社比で3時間ぐらい余裕で!!」
蒼幻「いやそういう問題では。だいたい明紅さんまだ登場して無いじゃないですかこの洞仙日記」
主人公「それがどうした! ゾマホンなんてそも本編にも登場しないぞ!?」
蒼幻「……」
そんなこんなで主人公たちとの話し合いも時間の無駄と見た蒼幻は(気持ちは要らんほど判るが)、今入ってきた方の扉も封印する。逃がさないと云う訳だ。そして戦闘開始!! 実はこの蒼幻、敵キャラで唯一最強の攻撃仙術「天帝陣八極炉」を使う世界最強クラスの道士なのだが、ソレさえ使われなければ割とただの道士である。先手必勝を期すればまず大丈夫で、先刻倉庫部屋から取り出した最強装備でもってあっさりと倒すことができた。
蒼幻「くっ…仕方ありません。今回は貴方に譲ることにしましょう。譲るだけですよ? 貴方が失敗したら即座に交代していただきます」
主人公「あーハイハイ。言っとくけど責任は取らないよ?」
蒼幻「ご心配なく。私が地の果てまで追いかけて責任を取らせてさしあげますので」
主人公「えっ!? もしや…!?(下図参照)」
なんかある意味怖いことを言い残して、蒼幻は消える。そして「解封呪」で扉の封印を解き、機械室に入ったふたり+馬明仙に、先刻までとは明らかに違う、生気に満ちた大聖樹の声が届いた。
大聖樹「まずは礼を言わせてもらおう。ありがとう、これで私の天命は100年は延びた」
主人公「うを!? 『礼を言う』とか言うヤツって実際にはソレだけで済まして『ありがとう』とか何も言わない法則があるこのご時世に珍しく感心なやつだなあんた!!」
大聖樹「ふっ…お安いご用だ。ならばおまけにもうひとつ礼を言おう。チェーズーティンバァデェ」
主人公「どっどこの国の礼!?」
さくら「どういたしまして」
主人公「って通じてるし!?」
なんかミャンマー語だとのこと。いや地図の巻末とかによく載ってる「世界の言葉で『こんにちは』」系のページを参照しただけなので深くつっこまれると困るのだが、実はここだけの話しトルコ語の「テシェッキュレデリム」とどっちにしようか5分ほど悩んだ。しかしミャンマーでは道を教えてもらって「チェーズーティンバァデェ」とか、醤油を取ってもらって「チェーズーティンバァデェ」とかホントにいちいち云ってるのだろうか。日常ではありがとうとか云わない文化なのか。
主人公「しかし…やっぱり蒼幻の方が正しかったな。大聖樹、あんた龍脈の陽気を吸収してるからこんなに元気びんびん夏物語なんだろう。でなければ大地が甦らないのにあんたが元気になるハズがないからな」
大聖樹「……」
さくら「…でも、どうして!? あなたの使命は大地を甦らせることでしょう!?」
そう、そうなのだ…けれど。それはつまり。
大聖樹「ならば…お前たちは私に死ねと…そう、言うのか?」
さくら「!!」
…エネルギーを返せば大地は甦るが、同じ力で生きている大聖樹は死ぬ。認めたくない、死ぬのが怖い、お前たちこそ消えろと、大聖樹は邪精を召喚する。けれど所詮ザコ、あっさりと片付けられると彼は観念したように。
主人公「大聖樹…」
大聖樹「私は…死なねばならぬのか。全てが…無になるのか。私の存在が無意味だったというのか。そんなことを甘んじて受け入れろと云うのか。せめて…せめて私に心など無ければ良かったものを。何故人間たちは私に心を与えたのだ」
さくら「ううん…あなたを作った人たちは間違ってないわ。心があるあなたでなければ大地を甦らすなんてできっこないもの」
大聖樹「だが、それは私の本意ではない」
さくら「!! ……そっか…そうよね」
作られた存在だから。最初から成すべきことを決められて生まれ、そしてそれが済んだら死ぬ…そこまでを義務づけられている存在。そんな彼にどんな言葉を掛けられるのだろう。何を言えばいいのだろう。
さくら「…」
主人公「なあ…大聖樹。あんたの心は悲しみや絶望しか伝えてくれなかったのか?」
大聖樹は応えない…が、構わずに彼は続ける。心あるゆえに喜びや楽しみを知っている、だからこそ悲しみや絶望がより強くなる…のではないか。本当は、大聖樹もそれを判っているのではないか。そう、いつか楽しかった頃の、喜びを感じていた頃の記憶…もう忘れたはずのそれが、今何故か鮮明に大聖樹の心を満たす。
そして、静かに、大聖樹は口を開く。
大聖樹「……なあ。私は、今から私の好きなようにする」
その心境の変化は、短い付き合いでもよく判った。そして大聖樹の言葉に答えよと、選択肢が出現する。「好きにしろ」と「ダメだね」と、「その前に聞きたいことがある」。もちろんどれを選んでも良いのだが…。
さくら「うん。あなたの人生じゃない、最後まであなたのために生きてよ」
主人公(へぶあー!? ちょちょちょちょっと待ってほら『天封呪』のこと聞かなきゃじゃんよ!? ここはあえて『その前に聞きたいことがある』を選択してくれそうなハブ取り名人に10点!!)
さくら(たった10点!?…って云うかこういうときは『赤恥青恥』でなくて普通『クイズダービー』ネタで『はらたいらに3000点』とかでしょ? ともかくせっかく綺麗にまとまりそうなのに横から茶々入れないでよ!! そういえば『お茶の子さいさい』って言葉は江戸時代の俗謡から来てるんだって!!)
主人公(いきなり話し変わってるじゃん!?)
まあ物語としては「好きにしろ」であろう。ので、今回はそれを選択。大聖樹の「好きなようにする」とはもちろん、大地を甦らせるために、彼にできることをする…つまり、死ぬこと。けれどそれは、無に帰すのではない。彼の存在が無意味になるのでもない。人の心の中に生き続けると云うことなのだ。
…大聖樹は自分の運命を選択した。
…鳥や虫の声と、何より緑の戻った地上を、ふたりは歩いて行く。
主人公「くそう、どうせこんなんなら最初のうちに脅して『天封呪』のこと聞いておくべきだったのか…?」
さくら「実は大聖樹さん『天封呪』を『知ってる』だけで、『破る』ことはできなかったんだけどね。選択肢を変えると『時の封呪』がどうとか言うよ」
主人公「何ィー!? じゃあ何俺、ていよく利用されただけ!?」
さくら「うん」
主人公「いやそんなあっさり流されても!?」
さくら「…でも大聖樹さん、あれで幸せだったのかなあ」
まあ幸せの概念もまた人それぞれ、所詮他人には判らない。例えばこうして「天封呪」の手掛かりを失ったふたりはまた旅をしながら元の世界へ帰れる道を探すのだが、その道だって幸せなのかもしれない。そのまま、ふたりは大聖樹が復活させた大地を後にする。
蒼幻「…心、ですか」
そして、かつて大聖樹の居た場所には、また新たな芽が伸びてきていた。
…終わり。次回からは「封印の門」編スタートです。
▲ひとつマエ■カオスシード■ひとつアト▼
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